幻妖奇譚
 五年生になって、ひと月が経とうとした、連休も間近な四月。

 クラス替えで新しいクラスメイト達に自分から声を掛けられなかったあたしに、初めて話し掛けてくれたのが光江だった……。


「関口さん、良かったらあたしのグループに入らない?」

 今から思うと、この時から光江はあたしを標的に決めてたんだ。

 嬉しかった……本当に。パパとサキ以外から“沙希”と名前を呼ばれた事も。

 だから……光江たちが時々話す“ママの自慢話”も、羨ましいな、と思いながらニコニコ聞いていた。

 もちろん、あたしもパパを自慢してた。ママに代わって料理も掃除も洗濯も、完璧にこなすパパの事を。

 光江たちの態度が明らかに変わったのはその頃からかもしれない。

 ある日、光江がこう切り出した。

「ねぇ! みんなのママの自慢のお菓子を持って来てさ、あたしの家でお菓子パーティーしない?」

 由美子もみちるも、賛成してた。でも、あたしは……。

「あ、ごめん。あたしは……」

「沙希、パパに作ってもらえば? 自慢のパパならお菓子だって作れるんでしょ?」

「パパ、お菓子作りはしないから……」

「沙希のパパ、なんでも出来るって言ったじゃない? 嘘ついたの?」





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