幻妖奇譚
 光江が恐い顔で睨む。

「う、嘘じゃないよ!? パパ、甘いモノ好きじゃなくて、だから……」

「いいよ! 沙希なんか来なくても」

 ……沙希なんか?“なんか”って何?
 何よりも、どうして光江が怒ってるのかわからない。

「そういえば、ママが言ってたんだけどぉ……」

 思い出したようにあたしをちら、と見てニヤリと笑う光江。

「沙希のママって」


 な、なに?


「男の人と不倫して“カケオチ”したんだってぇ~?」

 頭を思いきり殴られたみたいな衝撃が走る……カケオチ?ママが?

「え~! 不倫って悪い事だよねぇ?」

「そうよぉ! うちのママも“不倫なんて最低だ”って言ってたわ!!」

 由美子とみちるも、光江に加勢する。











 聞きたくない――!!

 ガタンッと席を立ち、教室の外へ走り出す。でも学校の中で、その行動は無駄な抵抗だった。

 ちょうどチャイムが鳴り、廊下に出たところで教室に向かっていた担任の先生に連れ戻されてしまった。


 授業中、あたしはずっと下を向いていた。 ポン、と可愛いシャツの形に折られた紙があたしの机に置かれた。

 “沙希にまわして”

 この字……光江?




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