幻妖奇譚
「……この子はやりやすかったわ」

 移動した部屋の中をサキが指差した。

「う……わ」

 女の子らしいフリルやレースで飾られた鏡が、あちらこちらに置いてある。

 由美子は3人の中で一番オシャレに気を使っていたけど、まさかここまでだったなんて。

「この子、よっぽど自分が大好きだったみたいよ」

「わかる……この鏡だらけの部屋、かなりのナル入ってるもん」

 でもその部屋には誰もいなかった。

「由美子、いないね」

「もうすぐ部屋に入って来るわ」






 ぱたぱたぱた……

「あー、いいお湯だったぁ♪」

 どうやらお風呂上がりらしい、タオル地のヘアターバンを巻いた由美子が部屋に戻ってきた。

「さてと」

 カチャ、カチャ

 引き出しの中からたくさんの小瓶を取り出し、並べる由美子。

「わ……」

 マニキュアにマスカラ、リップグロスやらが学習机を埋めていき、あたしは目を見張った。

「あっ! そうだっ!」

 由美子が席を立ち、手提げカバンの中に手を入れ何かを探している。

「あったあった♪ 今日の収穫品♪」

 由美子ってば、おこづかいいくら貰ってるんだろ……?コスメって結構高いのに……。でも、その疑問はすぐに解消した。

「あの店、ちょろいから取り放題なんだよね~♪」





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