幻妖奇譚
 破片は渦を保ちつつだんだん、中心にいる由美子に吸い寄せられるように近付いていく。

「い……や……誰かッ!! 助けてぇッ!!!!」

 鏡の破片が由美子の顔や体をじわじわと切り裂いていく――!!

「きゃああああッ!!」

 部屋の壁や床に真っ赤な飛沫が飛び散る。

 渦の中心にいるはずの由美子は、あたしからは見えなかった。

「サキ、ちょっと破片を止めて」

 不思議そうにあたしを見つめるサキに、あたしはニヤリ、と笑いこう告げた。

「由美子がどんな顔になってるか……ちゃんと見てあげなきゃ可哀相じゃない?」

 あたしの言葉に、それもそうね、と同意したサキは破片を操るのをやめた。

 パリン、カシャンと音を立て、床に破片が散らばっていく。

 先ほどまで真っ白だったレースやフリルで溢れていた部屋が赤く染まっていた。

 ――由美子の血によって塗り替えられた“由美子の部屋”。

 部屋の主は部屋の真ん中で同じく真っ赤に染まった服を着て、呆然としていた。

 いつもそうしていたのだろう、散らばった鏡の破片のひとつに手を伸ばし、自分の顔を映す由美子。

「……ッ!! いやああああッ!!」

 破片に映った由美子の顔――皮膚は切り裂かれ、いくつかの小さな破片は顔にめり込んでいる……。




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