幻妖奇譚

∽昔話∽

「さて……何から話そうか?」

 食後のコーヒーに口を付けるパパ。

「そう……この間沙希が聞きたがっていたママがどんな人だったのか、って話から始めようか」

「…………」

 ママの話……。こんな形で聞けるなんて……。

「ママはね、沙希が産まれてからもパパの事を“睦希(むつき)”って、名前で呼んでくれていたよ。だからパパも“美沙”と呼んだ。50年経っても仲の良い夫婦でいようって想いを込めてね」

「……ママといつ出会ったの?」

「美沙がアルバイトしていたファミレスにパパが後から入ったんだ。美沙が……丁度、今の沙希と同じ歳の頃だね。パパより2つ年下なのに随分大人っぽくて店で評判の美人だった」

「そんなに綺麗だったの?」

「美沙を狙ってた男は山程いたさ! だけど美沙は誘いを断り続けていた」

 目を閉じ、穏やかに話すパパ。

「……当時、美沙には交際していた男がいた。けれどその相手は、妻帯者で不毛な恋だった」

 初めて知ったママの過去……妻帯者って事は、不倫してたって意味だよね?

「パパは美沙の理解ある相談相手を装いながら、なんとかその恋を止めさせようとした……」

「…………」

「そうして相談を重ねるうち、美沙の心に変化が現れた。不倫関係を解消する、と。でも相手の男はそれに応じなかった――」




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