幻妖奇譚
「美沙が不倫を解消してからも相談を持ち掛けられたりして、一緒にいることが自然と増えて付き合い始めるのに時間は掛からなかったな」

「ママはパパを選んだのね?」

「ああ、美沙を射止めた時はバイト先のみんな驚いていたよ」

 パパ、嬉しそう。本当にママの事好きだったんだ……。でもちょっと疑問があった。

「……でも、ママの昔の相手は関係を解消する事に応じてなかったんでしょ?」

 パパは冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干し、溜め息を吐いた。

「……とても厄介な相手だったよ。奥さんと別れる気はない、けれど美沙とも別れたくない、と。しばらくは美沙にしつこく復縁を迫っていたよ」

「最ッ低! そんな狡い奴、別れて正解じゃない!?」

「うん……美沙も同じ事を言って、パパに対して申し訳なさそうにしていたよ。――だからね……パパはその男を殺したんだ……いや、実際には鏡の中にいるパパに頼んで殺してもらったんだよ」

「…………」

 鏡の中……。あたしがサキに頼んだように?

「あんなに人を憎んだのは初めてだった。でも同時に人の生き死にを自分は操れる……。そう考えるとなんとも言えない恍惚感が芽生えてきたんだ」

「あの鏡は……昔からあったの?」

 あたしの質問にパパは静かに首を横に振った。

「あの鏡との出会いは、パパにとって美沙の次に運命的なモノを感じたよ……」




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