幻妖奇譚
「さて……そろそろ美沙が何故、沙希を置いてどこへ行ったのか、を話そうか」

 あたしはごくっ、と生唾を飲み込んだ。

「美沙は現実主義でね、“鏡が人を殺す”なんて信じなかった。でも、自分達に関わった人間が次々に死んでいく――。馬鹿げている、と思いながらも美沙はパパに聞いてきた」

「なんて……聞いてきたの?」

「……“私の事もいつか殺すの?”と。もちろん否定した……けれど、美沙は“人の心なんていつかは変わる、私は貴方に怯えながら暮らすのは嫌だ”と言ってきた」

 パパがあたしを見つめ、こう言った。

「美沙は……ママは“貴方と別れる、そして沙希も連れていく”と言ったんだ。パパは、愕然とした。愛する者がいなくなってしまう……そんなのは嫌だ!! 気が狂うほどに願ったその時――鏡から眩しい光が放たれた」

「…………」

「その瞬間、美沙はいなくなった。美沙に抱かれ眠っていた沙希をその場に置いてね。パパは何が起こったのか飲み込めなくて一晩中探した。夜明けを待って、美沙の知り合い全てに電話を掛けたが、消息が掴めない」

「うん……あたし、なんとなく覚えてる」

 パパが一生懸命どこかに電話してた……子供ながらに何かが起こっている、と感じていた。

「だけどね、パパは美沙を見つけた。それもとても意外な場所でね」

「ママはどこにいたの!?」

 思わず身を乗り出したあたしに、パパは家の中のある方向を指差した――。




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