クリスマス恨み節
売り場に戻ると、売れたのは30個ちょっと。
リリーちゃんが子供たちに笑顔を振りまいて、お母さん方を逃がすまいとしている。
長谷川さんは、ケーキ箱を袋に入れて、すぐ渡せるように用意していた。
お客さんがはけると、
「リリー、休憩入っていいよ」
「長谷川さんは?」
「後からでいいよ」
これから、夕食の買い物にくる客が増えるからね、と長谷川さんは笑っている。
「北野森は、予定はないのか? クリスマス」
「え」
俺に聞くんだ。
「カノジョいないんです」
「可哀想な奴だな」
「クリスマスにロクな思い出ないんです。気付いたら駅で寝てたとか、鍵を無くして女の子に帰られたりとか」
「うわっ、大失敗の連続だね。人生大失敗だね」
とアヤノさん。
……そう。
俺の愛はいつも届かない。
もう、一人っきりの日曜日に、納豆ご飯を食べる生活はイヤなんだ……。
ジングルベルなんて、冷たいナイフのようさ。
「長谷川さんは」
「クリスマスは働くためにあるんだ」
「そうなんですか?」
「誰かがケーキ売らないと、ケーキ用意できなかったおうちの子が悲しむだろ」