恋人は隠れ既婚者【前編】
『えっ?俺に?』
私は怖ず怖ずと彼の顔を見上げた。
「そうだよ。…手作りなの。
…チョコ食べれる?」
彼が驚いた表情のまま、手に持ったチョコの箱をジッと見つめている。
頬を赤く染めた彼。
『食べれるよ!ありがとう!』
良かったぁ〜!!
作って良かった!!
渡せて良かった!!
嬉しくて身体が震えた。
『いや〜今年飲み屋の子から何個か貰ったけど、手作りはなかったな』
彼が照れくさそうに言う。
本当に良かったって思った。
一ヶ月振りに会える嬉しさ。
東京タワーの夜景。
バレンタインチョコ。
そのどれもが、さが兄を想う気持ちを急加速させていく。
恋心を抑えられなくなるのに、時間はかからなかった。