恋人は隠れ既婚者【前編】
旅館の受付で露天風呂の鍵を貰った。
向かう途中、ゲームセンターやカラオケで遊ぶ家族連れやカップルの姿があった。
露天風呂の入り口近くに窓があって、立ち止まった私達は冬の空を見た。
キラキラと輝く小さな星と三日月。
月明かりに照らされた彼の横顔。
見惚れてしまう彼が吐く息は、白くなって消え失せる。
3月なのに寒空だった。
『やっぱり、まだ外は寒そうだなぁ』
「うん。寒そうだね。お風呂でいっぱい暖まってこなくちゃね!」
私は十分、熱かった。