恋人は隠れ既婚者【前編】


去年まで、ずっと専業主婦をしてきた私には、とても不安なことばかりの連続だった。



お金を稼がなくては――…



それだけが私を奮い立たせている。



不安を吐き出すように深く深呼吸をした。


寒さで震えているのか、

緊張して震えているのか、


わからないその手で、恐る恐るお店のドアをそっと開けた。


店内改装したばかりのせいか、新築の家みたいな匂いが鼻につく。

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