恋人は隠れ既婚者【前編】
私達は抱き合っていた。
どちらからともなく唇を重ね、互いの舌を確認するかのように絡ませ合う。
とろけるような初めてのキスに胸が高鳴った。
身体中に彼の唇が這う。
耳に、首筋に、胸に、背中に、繋いだ指先まで熱を帯びていき、導かれるように感じていく。
彼が私の身も心も、その全てを包み込む。
私の痛いところを平気で突いてくる彼は、
意地悪でもあり
ひねくれ者でもあり
たまに優しくもあるのだ。
だけど…
何故かそんな彼が大好きになっていた。
《赤ジャージ》から
《佐川 浩樹》に変わった
一人の男を見ていた。