恋人は隠れ既婚者【前編】
『妊娠されていますね。今、二ヶ月と二週間たちますよ』
黙って先生の説明を聞いた。
握り合わせた両手がじわっと汗ばむ。
「…あの…中絶をするつもりなんです」
勇気を振り絞って口を開いた。
先生は『わかりました』とだけ言って、机に向かいパソコンのキーボードを打ち始めて一枚の紙を私に渡した。
『これが承諾書で相手の方のサインも必要になります。こちらがこれからの日程です。よく考えて下さいね』
「…はい」
中絶はいつの時代も女性の身体を傷つけるのだ。