恋人は隠れ既婚者【前編】
『俺の立場からは何も言えないよ』
彼はそう言った。
「なんで?」
『ひろの立場も状況もわかってるから』
私はそんな言葉を聞きたかったわけじゃない。
じゃあ、どんな言葉が聞きたかった?
どんな言葉を望んでいた?
彼だけを責めることは、できないのもわかっている。
私にも責任がある。
彼に産んでほしいと言われたら…
私は今より苦しんだの?
悩んだの?
硬く口を噛み締め外を眺めた。
いつの間にか、私達の呼び名は変わっていた。