Swallowtail 〜夜の蝶〜
 「じゃあ何、俺は幽霊のくせにあんたを自殺志願者だと勘違いして、止めに入ったってわけ?普通由緒正しき幽霊は、弱った人の隙を狙って道連れにするのが相場って決まってんだよ。」


 止めに入ったのではなく、場所を変えろと言っただけのはずだったが、なんだか私は小ばかにされた事にむっとして口をつぐんだ。


 むっとしている私に気づいて良太は、またもそもそとハウスに潜り込んで新しいビールを二缶手に持ち、やはり一缶を私に笑顔で渡した。

 「で・何でこんなところにいたのか、いい加減話せよ。俺はここに住むことを許されてるんだから、みかげを不法侵入で訴えることだってできるんだからな。」

 果たしてそんな権利がこの人にあるのかはさておき、私はなんだか魔がさして口を開いた。

 「彼に、昔みたいに心配してほしかったのかも。正直、自分でもよくわからない。」


 今朝、彼の征矢は私に一言の口も利かずに仕事へと家を出た。
征矢にとって私は、直視したくない幽霊みたいなものなのだ。もう何日もまともな会話なんてないし、どこで見つけてきたのか新しい女のところへ、いつ正式に転がり込もうかと、タイミングをみているようにさえ映る。


 「それって相当惨めな手段だけど、結局来なかったって事?」

 良太は少し視線を落として、コンクリートから強靭な生命力で伸びている雑草を雑に引っこ抜きながら言った。

 「やっぱ死のうとしてたんじゃねーかっていう突っ込みたい気持ちを抑えてあえて言うけど、やるだけやってみて、何か変わった?」

 私は空笑いをしながら、無言で首を振った。声を出して何か言ったら、不覚にも涙が零れてしまいそうだった。

 
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