Swallowtail 〜夜の蝶〜
 「飛ぶなら隣にしろよ」

 まだ決心には程遠く時間に甘んじていた私に、第三者が声を掛けた。

 ほとんど体内も脳内も死にかけている私にとって、誰もいないはずの屋上にあるはずもない声がするのは死ぬより恐い。



 後ろから突然どつかれて、不本意に突き落とされる恐怖が衝動的に頭を支配して私は身を縮めた。

 「おい、女。人ん家で勝手に死のうとしてんじゃねぇ。」



 推測の域を出ないが、まだ声が若い、低くけだるい男が背後から声を掛けている。しかも若干怒っている。


 まだまだ聞こえない振りを押し通せそうではあったが、今の声で急に我に返ったらフェンスの鉄剛が、尻に思いっきり食い込んでいて相当痛い事に気付いてしまった。
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