Swallowtail 〜夜の蝶〜
 「ねぇ、別に死ぬのは構わないから、場所を変えてくれってば。」

 いよいよ男の気配が背後に迫っていた。恐い、でも尻が痛くて振り向けない。             「ね?」


 男はフェンスに前かがみになって私の顔を覗き込んだ瞬間、フェンスが揺れたせいで尻に激痛が走った衝撃と恐怖で「ぎゃぁっ!」と叫んでしまった。 


 男も驚いて、フェンスから手を離した。


 あまりの痛さに、涙が出てきた。

 もしかして、と男がすぐ後ろで呟くと、「下りれなくなっちゃった?」

 私が首から上だけ動かしてうんうん頷くと、男は空笑いをあげながら背後から私を抱き抱えた。

 痛い痛いと喚く私に構わず、軽がると持ち上げるそのたくましい腕にときめいてる余裕もなく、コンクリートにおろされた私は、四つん這いになって尻を押さえ、色気のない唸り声を漏らした。

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