Swallowtail 〜夜の蝶〜
私がその男の顔をまともに直視したのは、それから一時間ほど後の事だ。



それまで私はうずくまって尻を抑えながら悶絶し、おとこは隣であぐらをかき、私の様子に終始声をあげて笑っていた。文句をいう余裕すらなかった。

ようやく落ち着いた私を、男は当然の面持ちでお姫さま抱っこすると、スタスタ隅にある闇に紛れて黒い物体にしか見えないものの方へ歩いていった。


「ちょっと、何お姫さま抱っことかしてんのよ。」
唖然としている私に、男は何故か浅いため息をついた。
「とかって何だよ。他になんかあんのか、おんぶしたらケツ触らなきゃなんないから、お前また痛がるだろ。」
男は一度、ずり落ちてきた私の体を抱っこしなおして、再び歩き始めた。
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