Swallowtail 〜夜の蝶〜
黒い物体の主は、巨大な段ボールと、ビニールでできた小さな基地のような家だった。俗世間で言う、ホームレスの家。


その全貌が自分の目にはっきりと見えた頃、私は静かにまたコンクリートの上におろされた。

「ひとんちってさっき貴方言ってたけど、これ?」
私は指差してズカズカ段ボール屋敷に潜り込んでいった男の背後に言った。

しゃがまないと到底入れないビニール製の出入り口から再び出てきた男の手には、ビールが二本、持たれていた。

「家と言えば家だし、正確にはここで隠居してる仮の住まい。」

男が一本ビールを差し出すと、私は頭を軽く下げてそれを受け取った。

「隠居って、あなた殺人犯?」

ビールのプルトップをあけようとしたら、長いジェルネイルが力なく折れそうになって躊躇した。

「それさぁ、自己満って以外になんかメリットあるの?男に家事はしないっていう無言の威圧?あと、説明すんの面倒臭いから詳しくは言わないけど、前科はないです。」

男は私の手からビールを荒々しく奪ってプルトップを持ち上げると、再び私に手渡した。
「それよりあんた、一時間も悶絶するほどフェンスに座ってたのは何で?」
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