Swallowtail 〜夜の蝶〜
こうして改めてよく見ると、男は私よりほんの少し年上くらいに見えた。ちょっと世間ずれしたような髭と、端正な顔立ち、ホームレスにしては小奇麗な服装をした言わば好青年に見えなくもなかったが、唯一社会性のないうらぶれた瞳が、本人が醸す一線を感じさせた。
「ねぇ、こんな所に勝手にダンボールハウス作って、管理人に怒られない?」
私はいった。このビルは立地が新宿にも関わらず、階の殆どがテナントの募集をかけている。いっそ壊して土地を売ってしまった方が儲かりそうなものだが、きっと持ち主も鼻持ちならない金持ちで、気分でビルを買ったまま忘れているのかもしれない。
「怒られないよ。ここの管理人、俺の知り合いだから。それにここから飛び降りたどっかの馬鹿のせいで、このビルに入ろうとする会社も少ないしね。」
どっかの馬鹿とは私の事かと思ったが、本間良太はこんな事を言った。
「去年の夏、今日みたいな風が気持ちよく吹いてた夜中にさ、なんか思い詰めた顔の若い男がこの屋上に入り込んで、止める間も与えずドカーン。」
人が死んだのに、よくそんな幼稚な効果音で話せるなと呆れたが、一瞬嫌な予感がした私は息を呑んで言った。
「実はその死んだ若い男って、良太の事じゃないでしょうね。」
半ば本気で言ったのに、良太は飲んでいたビールを喉に詰まらせてむせながらも必死に笑って言った。
「ねぇ、こんな所に勝手にダンボールハウス作って、管理人に怒られない?」
私はいった。このビルは立地が新宿にも関わらず、階の殆どがテナントの募集をかけている。いっそ壊して土地を売ってしまった方が儲かりそうなものだが、きっと持ち主も鼻持ちならない金持ちで、気分でビルを買ったまま忘れているのかもしれない。
「怒られないよ。ここの管理人、俺の知り合いだから。それにここから飛び降りたどっかの馬鹿のせいで、このビルに入ろうとする会社も少ないしね。」
どっかの馬鹿とは私の事かと思ったが、本間良太はこんな事を言った。
「去年の夏、今日みたいな風が気持ちよく吹いてた夜中にさ、なんか思い詰めた顔の若い男がこの屋上に入り込んで、止める間も与えずドカーン。」
人が死んだのに、よくそんな幼稚な効果音で話せるなと呆れたが、一瞬嫌な予感がした私は息を呑んで言った。
「実はその死んだ若い男って、良太の事じゃないでしょうね。」
半ば本気で言ったのに、良太は飲んでいたビールを喉に詰まらせてむせながらも必死に笑って言った。