うさぴょん号発進せよ
「ここから先は、絶対に喋るなよ。音も立てるな。で、俺の指示に従え」

鋭い目線をトヲルに投げかけ、一方的に耳元で囁くように言った。トヲルは口を塞がれたままで、コクコクと頷くことしかできなかった。

これから一体何をするのか、など、皆目見当もつかない。詳しい説明は皆無なのである。

自分勝手な人だ、などと思いながらも、取り敢えずはコウヅキに従った。

建物の前にある、御飾り程度にしか見えない門のようなものを、コウヅキはそのまま通り抜け、建物の敷地内へ入った。

トヲルもその後に続いたが、一応、今にも崩れ落ちそうなその門を、立ち止まって確認すると、

『くずれ荘』。

そこには、そう記されていた。

傾いてヒビが入ったプレート。しかも更に、今時滅多にお目にかかれないような、辛うじて読めるほどの汚い手書きの文字である。

(なんてロコツな)

呆れてそう思ったが、コウヅキはもう既に建物の裏手へ行ってしまい、見えなくなってしまった。

(あれ?中に入るんじゃないのか?)

アパートらしきその建物には、外付けされている錆まみれの階段があった。だからトヲルは、その階段を上るのかと思っていたのだが。
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