うさぴょん号発進せよ
疑問に思いながらも、音を立てぬよう注意しながら慌てて後を追う。

裏へ回ってみると、目の前にはトヲルの背丈よりもかなり高い、金網状のフェンスがあった。建物でいえば、1階と2階の中間あたりの高さだろうか。

そのフェンスの向こうには、見上げると空まで届きそうなほどの高い塔のようなものがあった。何となくその赤い塔に見覚えがあったのだが、建造物の名前が思い出せない。

トヲルが足を踏み入れたのは、ちょうどこのアパートらしき建物と、フェンスとの隙間の空間だった。一般の成人男性が並列で3人は通れそうな道幅が、この建物を取り囲むようにして、この空間に存在している。

建物の1階と2階部分には、同じような窓が上下3つずつあるだけで、ベランダはなかったが、何れもカーテンで仕切られ、外からでは中の様子は全くわからない。

その手前の窓から、2番目と3番目の間にある壁に、コウヅキは寄り掛かり、腕組みをしながらトヲルを待っていた。

単に目付きが悪いだけなのかはわからないが、とにかくトヲルには、そこに怒りのオーラのようなものが見えた気がした。

ビクビクしながらそこへ近づいていくと、

「絶対ここから動くな。何があっても、だ!いいな!」

トヲルの身体をその壁に押しつけ、コウヅキは、小声で有無を言わせぬ強い口調でそう言うと、すぐにまた来た道を引き返して行ってしまった。

(ホント、一体なんなんだよ)

半ば呆然としながらも、その場にしゃがみ込む。
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