うさぴょん号発進せよ
先程殴られた部分が、まだ少し痛む。

だがその痛みが今、自分が『生きている』ということを実感させるのだった。そしてそれがトヲルには、何故か嬉しいことのようにも感じられた。

「それと、ミレイユのことなんだが…」

「あ!それならこの前、ヴェイトから聞いた」

ミレイユは現在もまだ、入院中だった。

トヲルのほうは、昨日退院したばかりである。身体を起こすのがやっとという状態ではあったが、外傷はたいしたこともなく、あとは自宅療養ということで船に帰されたのだ。

しかしミレイユは――。

「ミレイユの記憶、まだ戻らないんだってね」

トヲルは少し、声のトーンを落として聞いた。

ヴェイトからの話でしか知らなかったが、身体のほうはトヲルと同様に、全く外傷もなく食欲も旺盛で、すこぶる元気なのだという。

だがミレイユは、あの星に着陸した時の記憶を無くしていた。

あの研究所らしき建物の地下道を探索した時の記憶が、全て抜け落ちているのである。

「ああ。だからミレイユが退院して戻ってきたら、あの時の話はしないでくれ」

ついっとトヲルから視線を逸らしながら、コウヅキは言った。
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