うさぴょん号発進せよ
コウヅキは軽く舌打ちすると、トヲルに顎で、船長の前に行くよう指示した。

促されるままにトヲルは、船長の目の前に移動した。

「あー、君がトヲル・藤崎君でちね」

「は、はい」

「わたちはこの船の船長の『アロクレア・テリスェワクミア・キヌノ』という者でち」

「アロク…?…キヌノ?」

1回聞いただけでは、覚えづらい名前である。

「まあ、人間には発音ちにくい名前かもちれないでちから、無理に覚えなくていいでちよ」

「は、はあ…」

「ちょれより」

と船長は続けて、また咳払いをした。

「何故君がこの船に呼ばれたのか、という理由を、コウヅキの方から聞いているとは思うでちが…」

「あっ、あのっ」

トヲルは慌てて、口を挟んだ。

「僕の両親が借金残したままで、失踪したってことは聞いてるんですけど、何で僕がここに連れてこられたのか、とかは、船長に聞けば分かるって聞いたんですけど」

「なんでちって!?…コウヅキ!」

トヲルより一歩後ろにいたコウヅキを、船長は迫力のないその目で睨み付けた。

「ちゃんと説明ちてから連れてきなちゃいと、言ったじゃないでちか!」

「そんなのメンドくせぇよ。そういうのは、いつもオヤジの役目だったしさ」

後ろのデスクに寄り掛かって、ジーンズのポケットに手を突っ込みながら、目を逸らしてふて腐れたように言った。

「全く、使えない人間でちね」

船長はブツブツと呟いている。

だが直ぐに気を取り直したのか、再び船長はトヲルに視線を向けた。
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