うさぴょん号発進せよ
トヲルがいつも…というわけでもなかったが、船の外から帰ってくるとヴェイトは時々、抱擁を求めてくることがあった。

日課のようなもので、男女問わず、この船の乗組員になら誰に対しても、である。

ヴェイトは女性のような格好をしてはいたが、特別男性が好きなわけではないらしい。

本人曰く、「女装趣味なだけ」だという。

だからヴェイトにとっては、本当にただの愛情表現なだけだろうが、女性にさえも全く免疫のないトヲルには、まだ慣れることができなかった。

「あら、そういえばもう帰ってきたの?今日は営業所の倉庫整理の日、だったんじゃなかったかしら」

「ええ、まあ…。でも船長に呼ばれてて」

「そういえばさっき、コウヅキも戻ってきたわ。コウヅキも呼ばれてるのかしらね」

真っ赤なルージュを引いた口元に手を当てながら、考え込んでいるヴェイトをそのままにして、トヲルは奥の階段を上っていった。

その先には船長がいつもいる、操舵室がある。
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