ひとひらの記憶
私はもう一度、記憶を探した。
その時―――。

今までの数倍の痛みが襲ってきた。
あまりの激痛に、思わず声が出る。


「……痛ッ……」


私の声に、お母さんと悠さんが慌てて顔を上げた。


「……っ!? 沙良!?」


私は顔を上げた。痛みに涙が浮かぶ。
でも笑った。思い切り、笑った。


「私……思い出そうと思って、今……記憶を探したの。でも……でもね、記憶は答えてくれなかった……。何も……思い出せないの」


頭痛の痛みと、悲しさとで涙がどっと溢れてくる。
私はお母さんに抱きついて泣いた。


「ごめんなさい……。お母さんとの思い出も、悠さんとの思い出も……何も思い出せないの。……思い出したいのに……思い出せない」


お母さんの胸で、思い切り泣いた。
お母さんの洋服が、涙でびっしょり濡れている。


「思い出そうとすると……頭痛が襲ってきて……まるで、思い出すなって言ってるみたいに。……それで、でも頑張って……思い出そうとしたの。そしたら、酷い痛みが襲ってきて……」


私は、しゃくりあげながら必死で話した。
お母さんが、私を強く抱きしめる。


私を、ぎゅっと強く抱きしめると、優しい声でこう言った。


「いいのよ、無理して思い出さなくて良いの。私は、沙良さえ生きていてくれさえしたら、記憶がなくなってようと、構わないのよ。だから、心配しないで。もう、泣かないで。安心して……ね?」


お母さんの暖かくて優しい言葉に、また涙が溢れた。
今度の涙は、痛みでも悲しみでもなく、嬉し涙。
私は、涙で濡れる頬を拭いて、お母さんを見て笑った。それでも、溢れる涙は止まらない。


「有難う……ありがとう、お母さん……」

「沙良は、泣くより笑ってる方が似合ってるわよ」


お母さんは、暖かくて優しい手で、私の頬の涙を拭った。それでも涙は止まらなかった。

その後も涙は流れ続け、私はお母さんの胸で、涙が枯れるまで泣き続けた。
その間中ずっと、お母さんは私を優しく抱きしめていてくれたのだった―――。


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