ひとひらの記憶
それから私は、お母さんである美奈子さんと、恋人である悠さんから、色々な話を聞いた。

私の記憶のあったころのお話―――。

それは、私の事を話しているはずなのに、私じゃない人の話みたいだった。
けど、どこか懐かしい。


「あの……私の名前は、皆藤沙良……でいいんでしょうか?」


私はふと、自分の名前を聞いていなかった事を思い出す。ずっと、二人は私のことを“沙良”と呼んでいた。それが、私の名前―――……?


「やだわぁ、一番大事なこと言ってなかったのね私。もう、誰か言ってよ。皆、意地悪なんだから」


お母さんが、お茶目に笑う。


「あってるわよ。貴方の名前は、皆藤沙良。どう? いい名前でしょ??」


私は微笑んだ。
どこかで聞いたような、懐かしい名前――……。


「……可愛い名前です……」


私は微笑みながら言った。そんなに大きな声ではなかったし、むしろ小声だったから、お母さんには聞こえていないかもしれない。

そう思ったけど、聞こえていたらしい。
私を見ながら、「でしょー?」と、嬉しそうに微笑んでくれたから。


「そうそう、他に何か訊きたい事ない? 私、何かまだ重要なこと忘れてないかしら?」


お母さんは、首をかしげながら色々と考えている。


悠さんが笑いながらお母さんにそっと囁く。


「ココに入院している理由とか言った方がいいんじゃないですか?」


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