ひとひらの記憶
そしてそれから一週間後、私は病院を退院することができた。
「今までお世話になりましたっ!!」
玄関のところで、私は医師と看護師に頭を下げた。
「これから大変でしょうけど、頑張ってくださいね」
「はい!!」
私はお父さん、お母さんと一緒に車に乗り込んだ。後部座席の窓を開けて、見送りに来ている他の看護師の人たちにも手を振った。
車が発進する。
「いろいろありがとうございましたぁ―――!!!!」
私はそう叫び、見送りに出て来てくれていた医師や看護師たちが見えなくなるまで手を振り続けた。
20分くらい車に揺られて、ようやく家に到着した。
久しぶりの我が家……なのだが、やはりまったく覚えていない。
お父さんやお母さんとともに家の中に入るなり、うわぁと歓声を上げてしまった。
目覚めてから、病室しか見ていなかったからだ。
「いい匂いがするぅー」
私はきゃっきゃっと歓声を上げながら家の中を見回した。
リビングのソファーに座っても、なんだか落ち着かなくてそわそわしてしまった。
何か、自分の家って感じしないなぁ。他人の家に遊びに来たみたいな気分。
お母さんは、私が好きだったというホットココアを入れてくれた。
そのおかげで、気持ちが安らいだ。
よく考えてみると、ちょっと懐かしいような気もするな。