ひとひらの記憶
それからお母さんが、家の中を案内してくれた。
寝室、お風呂、キッチン、物置。お父さんの部屋は、相当の読書家らしく本棚がずらりと並んでいた。
そして私の部屋。私の部屋は2階の一番奥の部屋だった。

部屋を空けて中を見回す。ぬいぐるみが沢山置いてあった。
大きいものから小さいものまで。くまのテディベアもあれば、アンパンマンなどのキャラクターもいる。

「沙良はぬいぐるみが大好きでね。もらったりしたやつを大切そうに部屋に飾ってたわ」

配置から見ても、ぬいぐるみが大好きで、ものすごく大切にしていたことが伝わってくる。
記憶を失ってしまった今の私でも、このぬいぐるみたちはかわいいと思うし、多分大切な宝物になるだろうと思った。

「特にこのぬいぐるみを大切にしてたかしら。いつも持ってたわ」

そう言ってお母さんが持ったのは、子猫のぬいぐるみ。
私は思わず歓声を上げお母さんから渡されたそのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。

「あらまあ。やっぱり記憶を失っても沙良は沙良ね」

お母さんは笑ってそう言った。

「そのぬいぐるみね、悠君との初デートのときに買ってもらったんだって、嬉しそうに話してくれたのよ」

「悠さんに……?」

「そう。もう、そのときの幸せそうな顔は今でも忘れられないわ」

お母さんはそうおちゃらけて笑った。そして「夕飯の時間になったら降りてきなさいね」と言い残し、下へ降りていった。

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