ひとひらの記憶
部屋に一人になる。私は改めて部屋を見回した。
ぬいぐるみは主にベッド付近にいることが多かった。

アレかな、病気がちで寝てることが多かったって言ってたから。

一人で寂しくないように。
そんな気持ちがあったのかもしれない。

勉強机の前に立ってみる。
机の上にはいろいろな教科書や問題集が乗っていた。
椅子に座って、問題集を開いてみる。

「うわっ。真っ白……」

開いた問題集は英語。はじめの一問だけやってあり、二問目からは手付かずだ。
そのたった一問の答え合わせをしようと思ったのは気まぐれ。
答えのページを開き、自分の回答と答えを見比べる。

「……たった一問だけなのに間違ってるし」

なんだか自分が恥ずかしくなって、慌てて英語の問題集を閉じる。
次は理科を開いてみた。

「あっ、これはほとんどやってある」

理科の問題集は、空白もなくすべてが埋まっていた。
また答えと自分の回答を照らし合わせてみる。

「やったー、全問正解」

理科は満点だった。一字一句、どこも回答と違うところはない。

実は回答をそっくりそのまま写してたりして。

そう思ったが、その真相を知っているのは記憶を失う前の沙良だけだ。


他の教科も開いてみる。
国語、社会は、空白や間違えているところがあるものの、ほとんどができていた。
そして最後に数学を開く。

「ちょ、何コレ」

開いたそのページは、落書きだらけだった。
問題は一問も解いていない。
他のページをめくってみても絵が描いてあるばかりで、問題がやってある気配はない。

「どれだけ嫌いだったんだろう、数学……」

何かもう、いろんな感情通り越して呆れしかでてこないや。
そして、一通り絵が描いてある問題集を閉じた。
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