ひとひらの記憶
次に、本棚の前に立ってみた。本棚にはずらりと小説が並んでいる。
下の2段だけは漫画が置いてある。

小説をぱらぱらとめくってみる。
恋愛、冒険、年代記、ミステリー、ホラー、学園モノ、ギャグコメ、SFまで、ジャンルは幅広い。
しゃがんで漫画も見てみる。
こちらも恋愛、戦闘、ギャグ、冒険、何でもアリだ。
少女漫画より、少年漫画系のもののほうが多かった。

漫画を一冊手に取りめくっていると、見覚えのあるキャラクターがいたような気がした。

どこで見たんだろう…………。

見覚えがあるってことは、つい最近のことだろう。
手術前の記憶は失ってしまっているのだから。

「……あ、アレだ!!」

思い出したそれは、さっき呆れて閉じた数学の問題集。

机に戻って開いてみると、やはりそうだった。
どうやら私はそのキャラが大好きだったらしい。数学の問題集は、よく見るとそのキャラの絵ばかりだ。

改めて数学の問題集の絵を眺めてみると、漫画のキャラや小説の挿絵として描かれているキャラがほとんどだった。
さっきは気づかなかったが、中には、ご丁寧に色までついているページもある。
これには苦笑するしかなかった。

ふと、本棚の隅のほうに置かれているものに目が行った。
それは、中学の卒業アルバム。

ぱらぱらめくる。視界の隅に、ある言葉が映った。
私は慌ててそのページまで戻す。

『将来の夢』

そこには、クラスごとに将来の夢が書いてあった。
自分の名前を探してみる。案外すぐに見つかった。

『将来の夢』

イラストレーターになること   皆藤沙良

私の欄には、少し丸まった字ではっきりとそう書いてあった。

イラストレーター……そっか、だからあんなに沢山絵が描いてあったんだ。
丁寧に色まで塗ってあったことにも納得がいく。

それにしても。

「…………数学の問題集に描かなくてもいいじゃん」



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