ひとひらの記憶
悠は、笑っていた。

笑いながら、ピースを作り、私に向かって見せる。


「手術が成功するおまじない。びっくりした?」

「び……びっくりするに決まってるでしょ!!」


私は、怒って頬を膨らませる。


「わりィ、わりィ。あはは、怒ってら」


悠は、そう言うと、腹を抱えて笑いだした。


「本当に悪いと、思ってるのッ!?」


私は、そう返した。そして、笑った。

悠の笑顔に釣られて。


「沙良、いってらっしゃい」


悠が、笑いながら言った。最高の笑顔で。

だから私も、悠に返す。最高の笑顔で。


「悠、いってきます」




私は、今度こそ本当に、手術室に向かった。
悠は、ずっと私に向かって、手を振っていた。


手術室に着いた。

私の心は、緊張と不安でいっぱいになる。
そんな折、先程の、悠の言葉が甦ってきた。

“頑張れよ、沙良。きっと大丈夫、成功だって。なんてったって、俺が付いてるんだからな”



「……そうだね、悠。私には悠が付いてる。だからきっと大丈夫。頑張る。…私、頑張るね、悠」



このときの私には、まだ分からなかった。手術後、あんなことになるなんて。


―――まだ誰も、予想していなかった。
   予想など、誰もしなかった。

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