ひとひらの記憶
『では、麻酔しますね』


その声が聞こえた直後、私は急激な眠気に襲われた。
医師や、看護師の声が、段々遠のいていく。
そして私は、眠りについた。



眠りの中、私は夢を見た。

深い、真っ暗な闇の中を、1人で歩く夢。



その闇は、いつまでも続いている。出口が見えない。

何処までも広がる、暗い闇。


私は、深い闇の中が怖くなり、入り口へ引き返そうと、後ろを向いた。


――何もない。真っ暗な深い闇。左右を見ても、前後と変わらぬ暗い闇。


……………怖い。私は思わず、その場にしゃがみこむ。周りを見るのも怖くなり、手で顔を覆い、目もきつく結んだ。

ふいに、手が何かで濡れた。


どうやら、涙らしい。

―――怖い。怖いよ……誰か。

悠―――…悠。助けて…………。



その時、誰かが私を呼ぶ声が聞こえた。



―――…誰? ………悠??


“――ら、沙良!! 死ぬなんて言わないよな? 大丈夫って…頑張るって、約束したよな??”


その誰か、それは――悠だった。
悠のその声は、涙声だった。
嗚咽しながら、叫んでいる。


どうして…どうして悠は泣いてるの??
私は、ここにいるよ。
早く……早く助けて。―――悠。

< 5 / 23 >

この作品をシェア

pagetop