ひとひらの記憶
“沙良、嫌よ!! ――死なないで。”


この声は、お母さん??
どうして……お母さんも、涙声?

死なないでって…何?
私は、ここにいるのに。


“沙良、言ってたわよね。成人したら、家族3人でお酒飲もうねって。だから、それまで二人とも死なないでねって……。”


ああ……したっけ、そんな約束。
きちんと、覚えててくれたんだ。


“なのに、言った本人が死にそうになるなんて、どういう事? ねえ…死なないで。”


死にそう?? 私が…………!?
私、ここにいるんだよ。
死んでない。気づいてよ、ここにいるよ!!

“俺達には、お前しか居ないんだ…。お願いだ、沙良。死なないでくれ!!”


この…堅物そうな声、お父さんだ。
いつも、無表情なお父さんの声が、涙声?


“先生、駄目です。心肺停止のままです!!”


看護師の、焦った声が聞こえる。


―――そうだ。私、手術中なんだ。

じゃあ……、私、もう死ぬのかな。この暗闇の中で。此処で1人、死ぬのかな?


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