それからの物語~続・サッカーボールと先輩とアタシ~
「万桜の事、苦しめてしまったけど、あの時はそれが一番いいと思ったんだ。俺が逃げていただけだって、後から気付いたよ。」
髪をかき上げながら続ける。
「だから、今度は正直に言ったんだ。『こっちに来るまで待ってて欲しい』って。」
寒くないのに背中がゾクリとして、熱くないのに汗ばんだ。
次の言葉が聞きたいようで、怖かった。
「見事に振られたよ。」
体の力が抜ける。
「全国大会の時だから、きっと君の事好きだったんだろう。」
…そうだったんだ。
様子がオカシイとは思った。
体の調子が悪かったから、そのせいだと思っていた。
――岩城さんは、急に手を上げた。
振り向くとトイレから出た万桜が、またキョロキョロしていた。
そして俺達を見つけると、小走りで戻って来た。
「万桜すごい方向音痴だろ。今、右から来たのか左から来たのか覚えてないんだから。」
肩を震わせ笑う岩城さん。
そうか、体の向きを変え万桜の事を気にしていたんだ。
店の中を見渡せるこの席に座っていたのも、そのためだったんだ。
深い愛情を見た気がした。
見たくはなかった、深い深い想いを。