恋 時 計 ~彼はおまわりさん~
微笑む先生の横顔を見ていると、なぜかあの日のことが甦ってきた。
先生が悲しい顔を見せ、辛い恋を『知ってる』と言ったこと……。
先生はあれから一度も悲しい顔を見せることはなかった。
もしかしたら、私の気のせいだったのかもしれないっていうくらい、いつも明るくふるまっている。
「じゃあな、頑張れよ!」
私と智子に手を振った後、先生は校舎に向かって歩きはじめた。
遠くなっていく先生の後ろ姿。
先生の背中は、生徒の私から見たら迷いを知らないと感じさせるくらい大きく、綺麗に伸びている。
けど、きっといろんなことを抱えている背中なんだろうな……。
教師をしていることに自信がないって言ってたし、
それに、やっぱりあの時の悲しい瞳は嘘じゃないと思うから。
「美樹? ぼーっとしてどうかした?」
「えっ? ううん、なんでもない」
私の顔を覗き込んだ智子の声で我に返った。
私、なに先生のこと考えてるんだろう……。
いつもはおまわりさんのことで頭の中がいっぱいなのに、今日はどうかしてる。