恋 時 計 ~彼はおまわりさん~
先生は、立ち止まった私に「寒いから休んでけ」とだけ言い、体育教官室に入れてくれた。
外とは別世界のように温かい教官室にいるのは、鈴木先生と私だけだった。
「真っ赤な顔して冷えてるんだろ~。
ほれ、お茶しかないけどちょっとはあったまるぞ」
「ありがとう……」
先生の手から渡された湯呑の中には、普段口にすることのない番茶が入っていた。
一口くちにしただけで、熱い温度が体の中を下りていくのが伝わってくる。
「あったかい……」
「だろ? 寒い日はお茶が一番」
先生は私の頭をポンっと叩いて笑った。
なんだろう……。
なんだかとても落ち着いていられる。
胸の中は不安や悲しみでいっぱいなのに、泣かずにこうして座ってられる。
「あぢっ!!」
「先生、もしかして猫舌?」
「悪いか!」
湯呑に口をつけた先生は、少し赤くなったピンク色の舌を思いっきり出した。
その顔が可笑しくて、自然と笑みが零れていた。