恋 時 計 ~彼はおまわりさん~


「うっ……美味しい……」

「だろ? って、これもおかしいか」




泣きながら食べた稲荷寿司。


甘酸っぱくて、しょっぱくて……。

たぶん、この味はきっと忘れないと思う。



先生と泣いて笑って食べた

切ない恋の味。







「先生……ありがとう」

「それはこっちのセリフです。
 凄いウマかったよ」



食べ終わった後、先生は私の頭をクシャッと撫でて、お茶を入れ直してくれた。


さっきと同じ温度の番茶なのに、口の中に入れると少しぬるくなっているように感じた。




「さっき青木のお母さんから連絡があったんだ。
お父さんの意識が回復したんだってな? 良かったな」

「うん……」




先生、何も聞かないんだね。


私が一人で歩いていたことも、泣いてた訳も……。




「先生、どうして何も聞かないの?」


私の言葉の後、先生は私の正面に座りゆっくりと口を開いた。






< 429 / 712 >

この作品をシェア

pagetop