恋 時 計 ~彼はおまわりさん~
「うっ……美味しい……」
「だろ? って、これもおかしいか」
泣きながら食べた稲荷寿司。
甘酸っぱくて、しょっぱくて……。
たぶん、この味はきっと忘れないと思う。
先生と泣いて笑って食べた
切ない恋の味。
「先生……ありがとう」
「それはこっちのセリフです。
凄いウマかったよ」
食べ終わった後、先生は私の頭をクシャッと撫でて、お茶を入れ直してくれた。
さっきと同じ温度の番茶なのに、口の中に入れると少しぬるくなっているように感じた。
「さっき青木のお母さんから連絡があったんだ。
お父さんの意識が回復したんだってな? 良かったな」
「うん……」
先生、何も聞かないんだね。
私が一人で歩いていたことも、泣いてた訳も……。
「先生、どうして何も聞かないの?」
私の言葉の後、先生は私の正面に座りゆっくりと口を開いた。