恋 時 計 ~彼はおまわりさん~
床に座り、靴ひもを結びながら一哉が口を開いた。
「お父さんの退院はいつだっけ?」
「今度の木曜日だよ」
「退院して落ち着いたら、一度挨拶に行こうと思うんだけど……」
「挨拶?」
「ほら、俺、美樹の担任してた教師なわけだし……このまま黙って付き合ってるってのは良くないだろ?」
靴を履き終えて、こちらを向きながら立ち上がった一哉の頬が、ほんの少し硬くなっているように見えた。
やっぱり一哉は大人だね。
私なんかより、私と家族のことを考えてくれてる。
「お父さんは順調に回復してるんだろ?」
「うん。体の方はね」
気がかりな事件とお父さんの失った記憶が脳裏に過り、もう一度一哉に口を開いた。
「一哉、あの事件の噂……やっぱり本当かもしれない」
私の一言で、一哉の表情が固まった。