恋 時 計 ~彼はおまわりさん~



名取さんがタクシーで帰った後、私はおまわりさんの様子を見に行った。



痛みが強いせいか、額に汗が滲んでいる。


「おまわりさん、汗を拭くからね」



眠っているおまわりさんの額を、濡れたタオルで優しく撫でた。




おまわりさんの身体

いろんなところに傷があるね。


どれも痛そうで……


だけど、

見えない傷は、もっと痛かったんだろうね。



もっともっと痛くて、苦しくて……


いろんな感情を抱いて生きてきたんだね。



憎しみや悲しみは、同じ物しか生みださない。
悲しみの連鎖が起こるだけ――


強い眼差しで言ったおまわりさんのあの言葉は、おまわりさん自身が乗り超えてきたことだったんだね。







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