恋 時 計 ~彼はおまわりさん~


長期間の山村勤務を終えた俺は、明日からあの交番に戻ることになった。


懐かしいあの景色の中で、街の人たちの安全と平和を守る。


それはとても嬉しいことであり、だけど複雑な思いもあった。




だって、あそこにはたくさんの思い出が詰まってる。


苦しいこともあったけど、どれも大切な思い出で、かけがえのないもの。


だから、あそこに行くと今まで抑え込んでた寂しさが溢れ出してきそうで……。






「その腕の傷痕、美樹を守った時の?」


彼の視線が俺の右腕に移っていたことを知り、俺は頷いて見せた。



「そっか、あんたも大怪我したんだよな。大変だったろ」


「俺なんて大したことないよ。こんな傷、全然大したことない……」



俺には傷痕が残った。それだけだ。

だけど美樹は……。




美樹は記憶を失ってしまった。

事件に関わっていたもの全てを忘れてる。




美樹が崩れてきたコンクリートで頭を打った時、

脳が衝撃を受けて、恐怖として記憶された事全てをリセットしたんだろうと医者が言ってた。


思い出したくない記憶と一緒に、俺との思い出も……。



病院で事件の事情聴取を受けた美樹は、途中でパニックを起こしたらしい。


だから俺は、一度も美樹に会っていない。






俯いた俺に、彼がポツリと呟いた。



「美樹、こっちに戻ってくるらしいよ」






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