恋 時 計 ~彼はおまわりさん~
「え……」
一瞬、息が止まった。
気持ちが落ち着くまで親戚のおばさんの家にいるって聞いてたけど、
戻ってくるんだ……。
いつなのか聞こうとすると、先に彼が口を開いた。
「親子で記憶喪失になるってありえないよな?」
ケラケラと笑って言う彼の言葉にカチンときた。
「そんなふうに軽く言うな」
「だって、こんなのドラマでもありえない話だぞ。記憶喪失も遺伝するってか?」
おい、もういい加減にしないと……。
握っているビールの缶が潰れかけた時、彼が静かな声で言った。
「遺伝だと良いな」
え……
「遺伝だよ。きっと」
俺は、2缶目のビールをゴソゴソと袋から取り出す彼の後ろ姿を、何も言えずに見ていた。
きっと美樹は、この人のこういうところを好きになったんだろうな。
遠回りなのに直球のように感じる彼の優しさ。
「ありがとう」
「あ? 今何か言った?」
「いや、別に」
「あ、そう。つまみも喰う?」
袋を覗き込む彼の姿を見ている俺は、自然と笑っていた。
遺伝、か……。
もし遺伝なら、美樹も美樹のお父さんのように記憶が戻るんだけどな。
「つまみって何があるの?」
「ピーナツとするめと納豆と……」
「納豆? それってつまみ?」
「つまみだろ~」