夏の想
「お母さん…」


私は、その番号に電話をかけた。


プルルルル プルルルル プルルルル プルルルル


電話のコール音、その間が、凄くドキドキして、鼓動の音が聞こえそうなほど。


『もしもし?どなた…?』


懐かしい。この、少し高い、優しい声。


『私―。夏芽だよ』


『夏、芽?夏芽なの?』


『うん。夏芽。お母さん、元気にしてるの?大丈夫なの?』


『ええ。元気にしてるわ。夏芽は大丈夫なのね。そう。安心したわ。ご免な、さ…。夏芽っ…ご免なさい。あなたを置いていったこと。バカね…。私、あなたを置いていって、後悔して…。それに連絡くれ、だなんてっ…。グスッ』


『いいよ…。お母さん…。お母さんの家、どこなの?』


『○×市の、□□町よ』


『私の家と近いね。ねぇお母さん、お母さんの家に泊まらせてくれない?』


『ええ。いいわよ。こんな私の家でいいのなら―…』


私を置き去りにしたお母さん。でも、どうしてだろう―?


愛おしい…。ものすごく、愛おしいと思った―。


『今日、☆☆公園に、5時に来てくれる?ヨロシクね』


『ええ。わかったわ。じゃあ、切るわね。5時に』


『うん。バイバイ』
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