天の涙、太陽の花

「誰」

「…え…?」

誰もいないはずの駅に傘に当たる雨の音と男の声がした。

「…アンタこんなとこでなにやってんの」


その男は深い緑色をした傘をさし、黒のスーツを身にまとっていた。
誰この人…


「…あなたこそ誰なんですか?」
「そっちが先に言ったら俺も言うよ」


少し戸惑いを覚えたが、向こうも引いてはくれないだろうと察し、恐る恐る口を開いた。

「…一ノ瀬向日葵です」
「ふーん、俺は隆志(たかし)ね。…あ、名字は教えないことにしてるから。職業柄、ね」


そう言いながら傘を閉じ、水を落としながらこちらに歩み寄って来た。

近くに来ればよりその高身長が分かる。
しゃがんで何やら名刺のような物を差し出してきた彼は、顔に少しかかった黒みがかった茶髪を撫でるようにかき上げ、髪の色からは考えれない真っ黒な瞳を向け、ほんの少し口端をあげた。



不思議と吸い込まれて行きそうな感じと警戒心が混ざり合う中、手元の名刺に目をやると、『BV本店 No.1 タカシ』と。



どうして私はこうも男運についてないんだろう。妻子持ち不倫上司の次は──……


「……ホスト?」




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