**confection**
「るぅ、そっちは何の曲だった?」
「えっ?あ…分かんねー」
突然現実に戻されたように、周りのザワザワとした雑音が耳に入ってくる。
完全に自分の世界へ入り込んでいたようで、全く周りが気にならなかった。
「私にも聴かせて?」
「ん?ああ、ほれ」
差し出してみると、頭だけ俺の方に傾けたももに、ビクッと反応してしまう。
ふわりとももの甘い香りが鼻をくすぐり、反応するように心臓が暴れ出す。
どっと汗が噴き出しそうになり、慌てて気持ちを落ち着かせようと勤めてみる。
でも、そんなの無駄にすぎない。
キラキラと好奇心に瞳を輝かせたももに、胸を鷲掴みされる。
急激に酸素濃度が低下してしまったかのように、呼吸の仕方まで分からなくなる。
なんでこんな良い匂いすんだよ!!
香水?いや、天然??
…ありえねー。
「誰だっけ…聴いた事あるんだけどなあ」
「…な」
なんでそんなに無防備なの?
頭にくる程無防備で、見とれてしまう程はにかむ笑顔が魅力的で。
鼻にかかったその甘い声すら、聞き逃すまいと必死に耳を傾けてしまう。
こんなんじゃ、諦めるなんて無理だろう。
いつの間にか、無条件にこんなにも好きになってしまっているなんて。
こんな気持ち、どう処理すればいいかなんて、俺には分からないんだ。