**confection**
すぐそばに居るのに、遠く感じるその存在。
手を伸ばせば掴めてしまうのに、髪の毛一本すら掴む事なんてできない。
今、自分にだけに向けられるこの笑顔を、独り占めしたい。
誰の目にも触れないように、どこかに隠してしまいたい。
俺のモノじゃないのに、なんてバカな考えなんだろう。
これからきっと、この曲を耳にするたびに、こんなやり取りを思い出すんだろうな。
相変わらずうっとりと耳を傾けているももの横顔を、チラリと盗み見る。
化粧は薄いのに、バサバサの睫毛が揺れている。
何も知らなさそうな、純粋そうな眼差しを、汚してしまいたい欲望が頭を覗かせて、それをグッと押し留めた。
「気に入ったのか?」
この距離が、今の俺には心地良い。
……なんて、嘘。
この距離が、もどかしくて仕方ない。
手を伸ばせば、その小さな肩も、小さな頭も、引き寄せる事なんて容易いのに。
「ん?う〜ん…なんか切なくなるなあって。よく分かんないけど」
そう言って照れたように笑うももに、やっぱり俺のチキンハートは暴れまくる。
俺にはよく分かるよ。
その切なくなる気持ち。
思わず口に出してしまいそうになり、グッと飲み込む。
こんなやり取り、一体何度目だろう。
「高校生なんだから、私じゃなくて彼女とこーゆうデートしなきゃダメだよ?」
……え?
ももの何気ない言葉に、胸がズキンと痛む。
素直に気持ちを言葉にできない自分が情けなくて、そんな事を言うももの唇を、今すぐ塞いでしまいたかった。