**confection**
「お邪魔しました。アップルパイもごちそうさまでした」
「いいえ、また来てね?」
「はい。では失礼します」
玄関で頭を下げながら、にこやかに手を振るおばさんにお礼をした。
来たときはどうなるかと思っていたけど、何とか穏便に済ませる事ができ、車に乗り込む頃にはホッと息を吐いていた。
ももと共に後部座席へと乗り込み、助手席には勇磨が賑やかに乗り込むと、スムーズに車は進み出した。
「なんか…本当にすみません。お世話掛けてしまって」
ホッとしたのも束の間、まだまだ気を抜いてる暇ではない事を思い出し、そう後部座席から運転席へと声を掛ける。
バックミラーごしにチラリと視線が合うと、鋭い目つきのおじさんがふわりと目を細める。
こうして見ると、おばさんに似ていると思っていたももは、おじさん似なのかもしれない。
まとめた感じはおばさんなんだけど、一つ一つの細かなパーツがおじさん譲りだ。
そんなよそ事を考えていた俺に、おじさんはやっぱり柔らかい声を掛けてくれる。
「いや、いいんだよ。これからも勇磨とももをよろしくな」
「あ、いえ。こちらこそ」
普通のサラリーマンよりも、佇まいがスマートで、いかにも仕事が出来そうなそんな雰囲気のおじさんに、貫禄を感じずにはいられない。
でもその反面、とても気さくで話しやすい温和な雰囲気に、固くなる事もなく済んだ。
普通、女子高生の娘が、こんなナリの男と帰ってきたら、終始眉間に皺を寄せるに違いないのに。
友達は友達かもしれないが、あっさりと受け入れてもらえた事に、少々の戸惑いがなかったと言えば嘘になる。
「君は今時の男と違って、しっかりしてるなあ。私の下で働いてもらいたいぐらいだよ」
「えっ!?そんな…しっかりしてなんかいないですよ…」
語尾になるにつれて、だんだんと声が小さくなる。
本気とも嘘とも受け取れないお世辞に、なんて言葉を掛ければいいのかすら思い付かない。