**confection**
「ありがとうございました」
後ろから少し身を乗り出し、声を掛ける。
振り返って微笑んでみせるおじさんは、やっぱり無駄な動きもなく、全てが完璧にすら思えてしまうから不思議だ。
「今度遊び行く〜」
「そうだな。待ってるな」
もう耳タコだと言う程に繰り返される勇磨の言葉に、苦笑いしながらそう答える。
途端に嬉しそうに満面の笑みを浮かべるもんだから、悪い気なんて全くしない。
「また遊びに来てくれな」
「はい。お邪魔します。じゃあ…ありがとうございました」
おじさんにお礼の言葉を口にしてから、足取りよくドアを開け、素早く車から降りる。
開けたドアから顔を覗かせるようにして腰を折り、中に視線を向けた。
「もも、おやすみ」
「うん。おやすみ」
はにかむような笑顔に、胸が高鳴る。
最終的には2人きりではなかったにしろ、今まで長く一緒に居たせいもあってか、なんだか寂しく感じてしまう。
「松風君、おやすみ」
「るぅまたな〜!!おやすみ〜!!」
そんな気分に浸る暇もなしに、おじさんと勇磨の声にハッとした俺は、瞬時に笑顔を貼り付けて視線を向けた。
「…おやすみなさい。じゃあ」
ひとまず挨拶をしっかりと返して、重い重量感のある車のドアを閉めた。
スモークがかっていて、その途端に車内は目隠しされてしまい、中の様子は分からなくなってしまう。
軽く鳴らされたクラクションまでもがアルファホーンで、何とも渋すぎる音を響かせてから車は走り出した。
遠ざかるテールランプを眺めながら、何だか今まで夢の中に居たような気分で夜風を頬に強く感じていた。