**confection**
unknowingly
―――ありがとう。
そんな言葉を最後に、目の前の人物が足元から崩れ落ちた。
抱き上げた体は、悲しくなるくらい軽くて―……自分に腹が立った。
自分の不甲斐なさに、悔しくて血が滲む程に唇を噛んだ。
何かを叫ぼうと口を開けかけた瞬間、聞き慣れた電子音に意識を強制的に引き戻された。
「………。」
うっすらと目を開けると、見慣れた天井が目に入ってくる。
カーテンの隙間からは、もう既にほぼ真上まで昇った太陽の光が、暗い部屋に光を届けている。
…夢…か。
まだ冴えない頭のまま、ひとまず絶え間なく鳴り続けている携帯を、枕元から引き寄せ、掛けてきた相手も確認せずに通話ボタンを押した。
「あ〜…はい?」
瞼が重い。寝た気が全くしない。
久しぶりに見た夢に、何だか体力を物凄く使ったような感じすらする。
「るぅ?今起きたの?」
「…あれっ?もも?」
少しノイズの混じる、機械っぽいももの鼻にかかる甘い声に、思わずパチリと目を見開く。
今日…は学校は休み…だよな。ん?なんか忘れてる気が……………
「今日、宗太のとこ一緒に行くって約束してたでしょ?」
「……あ」
「もう約束のお昼なんだけど」
結局昨日は、頭が冴えてしまってなかなか寝付けなかったんだ。
いろいろ考えていたと思うのに、今は寝起きのせいかそのほとんどを思い出す事なんてできない。
「ごめん。アラーム設定すんの忘れてた」
「それにしてもよく寝たね。さすがるぅちゃん」
「いえいえ。とんでもない」
「全く褒めてないしね!?そんな事より、早く準備してくれる!?」
起きて早々に、怒られる俺。
ひとまず目を覚まそうと、洗面台へと向かう。
歯磨きと洗顔を済ませて、適当に髪を整える。
顔を洗っても、歯を磨いても、睡魔はなかなか俺の中から出て行ってくれない。
生欠伸を繰り返しながら適当に着替え、まだぼーっとする頭のまま玄関へと出た。