**confection**
広すぎる玄関に綺麗に並べられた、いくつもの靴達。
数はいつものメンバー分で、他に誰かが来ている様子もない。
住み込みの寮として建てられた無駄に大きなこの建物は、宗太の両親が経営する美容室の従業員が住んでいる。
でも、部屋が有りすぎるものだから、空室がほとんどだ。
チェーン展開なんかしていて、県内では有数のオシャレサロンのような代名詞だ。
いわゆる、宗太も良いトコのぼっちゃん。て所だろうか。
本人は、美容になんか全く持って興味のないような、ふわふわ無造作ヘアーで毎日過ごしている訳なんだけども。
脱いだ靴を揃え、長い廊下を踏みしめて歩く。
やっぱりももは何だか表情が柔らかく、何だかソワソワしているようにも感じる。
特に会話が無いのはいつもの事だが、こうも表情がにこやかなももは初めてかもしれない。
ましてや、理由も無しに毎日ニヤニヤしてたら、さすがに違った意味で心配になるけども。
部屋が近付くに連れて、胸がドキドキと煽る。
変な脂汗が吹き出してくるようで、握り締めた手のひらがしっとりしている。
いつもなら五月蝿い程にだだ漏れの声が、今日は不思議と聞こえて来ない。
…なんだ…?
もう、頭の中はそれしか出てこない。
先ほどまであった、不安や怖さはなくなり、今は純粋に疑問だらけの気持ちでいっぱいになる。
今日は誰も…来てないのか?
それでも尚、俺とは対照的なももには、なにも言えなかったしなにも聞けなかった。
そんな思いのまま、静かすぎる部屋のドアに手をかけた。